旧ライフハック心理学

心理ハック

『妻を帽子とまちがえた男』

この本を読んだのは留学中だったのですが、たまたま、私が持っていた原著をアメリカ人の女性が見とがめて、
「そんなことって、あるわけ?」と、腹立たしそうに尋ねてきたのを今でも覚えています。

THE MAN WHO MISTOOK HIS WIFE FOR A HAT

なるほど。女性として腹を立てるのもムリはありませんが、私はその本を読んでいただけに、その中にはこれよりもはるかに奇怪で、ある意味ではぞっとするエピソードを多々読んでいただけに、「その程度のことは、当然あるだろう」と内心で即答したものでした。

実際、この本に出てくるエピソードは、妻を帽子と間違えるどころではありません。全24話。どれをとってもまるで、SFのショートショートを読むような感じです。そのリアルさと、心身に訴える不気味さと、医者が書いているという事実とが、読後にいっそう蠱惑的なインパクトを残します。

私が特に、この本を読んで以来意識するようになったのが、「当然の身体感覚もまた、脳の正常な機能に依存している」ということです。ご多分に漏れず私も思春期の頃、「感覚は主観的なもので、存在それ自体からして疑わしい」というニヒリスティックな不充足感に悩まされていました。しかしそれでも、「客観世界」の存在については猜疑の目を向けていたとしても、身体感覚については、十分な懐疑を抱いていなかった気がします。

明らかに、哲学的なニヒリズムからすれば、中途半端もいいところです。が、それでよかったのだという気もします。心の底から自分の身体感覚に疑いを抱くようなまねをしていたら、取り返しの付かないくらいややこしい目に遭っていなかったとも限りません。

本書『』には、特にこの「当然正常な身体感覚」に何らかの変調を来してしまった、神経心理学的な障害の報告が、たくさん収録されています。文章がうまいせいもあって、とても引き込まれます。たとえば、本にすれば3ページほどの短いやりとりがあるのですが、その中の患者は、目が覚めてみると自分の下半身に死体から切断された誰かの足がくっつけられたといって騒ぎ出します。それが何かの悪ふざけで、くっつけられたと思い込んでしまうのです。しかし本書の書き手である医者から、それはあなたの足だと指摘されると、患者ははげしいショックを受けて反発し、とても受け入れられないのです。

「私の足ですって? 自分の足なら自分で分かるはずでしょう?」
「その通りです」私は答えた。「自分の足だということは当然わからなけりゃ。自分の足だということが分からない人がいるなんて考えられませんね。ふざけているのはあなたのほうだ、ということになりますよ」
「とんでもない。誓ってもいい、絶対ちがいます。誰だって自分自身のからだのことはわかりますよ、自分のか自分のでないかってことは。だけどこの足は、こいつときたら、へんなんです、おかしいんです、私の一部ではないように思えるんです」
「いいですか」と私はいった。「あなたは具合がよくないようだ。どうかベッドへもどってください。最後にもうひとつだけ聞きますよ。もしこれが、もしこの物が、あなたの左足ではないとしたら、あなたの左足は、いったいどこにいったのですか?」
これを聞くなり、彼はふたたび青ざめた。このまま気を失ってしまうのかと危ぶまれるほど青ざめた。「わかりません」と彼は言った。「ぜんぜんわからないんです。消えうせたんです、なくなったんです、どこにも見あたらないんです」

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自信を持つためのマインドハック

脱線記録ノート」の記事を読んで、ふと、タスクから脱線するときというのは、おおむね気が弱くなっているということを思い出しました。自分のやっていることに確信があるときほど、脱線せずに済んでいます。(なおこの「脱線記録ノート」のアイデア自体もとても面白く、Doingリストを連想しました。この件については後日)。

心理学で「自信を持つ方法」(あるいは自尊心を回復する方法など)についてはいろいろ述べられているものの、今回考えるのは一つだけにします。それは他人からの評価と、自信との関係のことです。

よく言われるように「人間は社会的動物」である上に、「」という傾向も手伝って、「評価など気にするべきではない」と努力して考えようとしても、依然として他人による批評は気になるし、自信の糧ともなれば、自信を喪失させもします。

これはこれで仕方がないとして、それでも一つ、気をつけていることがあります。一つのネガティブな意見や評価によって落ち込むことがあるのは受け入れるにせよ、一つのポジティブな意見や評価によって、同じように自信を取り戻せるようにしないと、おかしいと思うのです。

これは、ブログでも、彼女とのつきあいでも、プレゼンテーションでも、何であってもです。特に、セミナーなどのアンケート結果を見るたびに思うのですが、30のアンケート結果を得たとき、1つのネガティブな意見を、29の支持的な意見よりも重視している自分の心は、不健全というだけでなく、わざわざ他人への不信感を強めているような気がするのです。このバイアスを修正しようとするだけで、多くの場合、自信が回復します。

サイレント・マジョリティという言葉がありますが、「4.満足した」に丸だけを付けて、他はほとんど白紙で答えられているアンケート結果をあまり重視せず、「1.とても不満」に丸が付いていて、自分への批判がびっしり書き込まれているアンケートは確かに、たとえ1通であれ、心に突き刺さるものがあります。

よく言われるように、「批判には素直に耳を傾けるべき」だと思いますが、だからといって、「支持者の支持は軽んじてよい」ということにはならないはずです。聴衆に身をさらす側の立場からすれば、突き刺さるような批判に注意が向きやすく、これといった意思表明をしてこない「沈黙セル支持者」たちへの注意がおろそかになりがちなのは、当然といえば当然かもしれませんが、聴衆の側からしてみると、理由もわからないのにとつぜん「活動を無期限停止」にされたり、そこまで行かないまでも、スタイルが大幅に変わったりするのを見るのは、残念なものです。

批判に全く無頓着、というわけにいかない人はたくさんいます。それは自然なことだと思います。だからこそもっと、自分への支持に頓着するべきです。支持者の気持ちは平気で裏読みする(「本当は満足していないのに、とりあえずほめてくれている」)一方で、批判者の言葉はそのまま受け取るというのでは、全く不公平です。支持者と不支持舎をせめて公平に扱うことで(本当は支持者偏重でいいはずですが)、自信をかなり取り戻せそうなくらい人から支持されている人は、じつはたくさんいます。

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ツールはどこまで一元化できるか

本を書いています。

本を書くときには、マインドマップのような、ツリー式の「思考整理ツール」というのでしょうか、そういうソフトを使います。個人的には、あまりこうしたツールがじつはそれほど好きでなくて、使いたくない気持ちもあるのですが、本は1人で書くものではなく、関係者の方に私の企画イメージをお伝えするときに効果的なため、使うようにしています。それほど好きではないとはいえ、それほど嫌いというわけでもないので。

問題は、ツリー式で構成案を作る以上、これをチェックリストとしても利用したいところなのですが、マインドマップにチェックリストの役割を持たせると、普段から使っているタスクシュートなどとの整合性を、手動で持たせなければならなくなるところです。

実際、そうしているわけですが、ちょっと不都合な感じもあります。つまり、タスクシュートの「書籍原稿執筆」に直面した時点で、「マインドマップ参照」とリンクを張っておくことになります。ここでマインドマップに飛び、原稿を書いて、書いた項目をチェックして、タスクシュートに戻って、終了時刻を入れる。

やるに値する作業ですし、こうして書くほど作業に手間はかかっていませんが、それでも、くっついていればそれに越したことはありません。

もうひとつ、タスクが過度に細分化した場合にも、「夜の雑務」などにまとめてしまい、これまた「雑務内容を参照のこと」という指示をタスクシュートから出します。雑務内容は、EVERNOTEで管理しています。

そこで最近考えたのですが、EVERNOTEにマインドマップの役割も集中させてしまえばいいのかもしれない。タグを階層化できるので、これを利用すれば、できなくはない気がします。次に大きなプロジェクトにぶつかったら、試してみることにします。

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先送り3タイプ

よく「先送り」と言いますが、先送りする理由にもいろいろあります。思わず先送りしそうになったとき、その理由をクリアにできれば、対策を立てやすくなります。

そこで先送りの主要な3タイプを挙げます。いずれもおそらくは、見覚えがあるものばかりでしょう。

1.ストレス耐性が弱い
2.決定力不足
3.プレッシャー好き

1は単純に、苦痛を避けて、快楽へと流れていってしまう状態です。誰しもそうだろう、と思う人もあるかと思いますが、これがすべての行動パターンとなってしまって、可能なときにはいつもこうしてしまう、という人がいます。

しかし、どんなに恵まれた状況にある人でも、苦痛を完全に避けて生きることはとうていできません。そのような生き方を指向すると、苦痛を避けること自体が苦痛になってきます。慢性的に緩くてもいいから快楽に向かうより、逆説的ですが、苦痛に向かった方が「ラク」ということもあるのです。

いずれにしても、可能な限りいつも苦痛を避けるというタイプの先送りパターンは存在します。パターンとしては単純ですが、意外に抜け出すのが難しい行動パターンです。

まずこのタイプから抜け出すには、あまり苦しいことに立ち向かわないことです。取りかかる「まで」の状況を徐々に整備し、「やるか、やらないか」までのところに自分を持って行くことです。ここまでであれば、さほどの苦痛はないでしょう。ここから先に行くかどうかは、パターン2で直面する問題です。

そこで、2の決定力不足ですが、これは1の状況から一歩進んだところの先送りパターンということになります。苦痛に直面しようという決意はあって、たとえばタスクリストなどに書き落とされていて、あとはただ取りかかればいい、という段階でやってしまう先送りです。「あとはやるか、やらないかだ」という二者択一を自分に突きつけ、そこで立ち往生してしまうのです。

これも容易な問題ではありませんが、決断するためには、正確な情報が有効です。現在の自分の状況と、仕事に取りかかったらどうなるか、取りかからなかったらどうなるか。そこまでわかるだけでも、決断は容易になるものです。

戦争において司令官が決断するには、正確な情報が必要です。ろくでもない情報で強引に決定を下しても、それは決断とはいいがたいものですし、正しい情報があれば、突撃する(タスクに取りかかる)にしても、撤退する(先送りにする)にしても、様子を見る(ちょっと取りかかる)にしても、決断しやすくなるでしょう。

3のプレッシャータイプは、要するに〆切効果が大好きなタイプです。〆切に追いまくられると、アドレナリン最大になり、その覚醒感覚がクセになっているのです。

このパターンを改めるには、認識を改めることです。覚醒感覚がマスローのピークエクスペリエンスや、ミハイのフロー体験に匹敵する、と主張するアメリカ人はいるのですが、〆切に追われる覚醒感覚は、ピーク体験やフロー体験とは異なるものだという研究報告もあります。

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プレッシャーのかかる状況では自分を見つめない

プレッシャーというものは、かかります。自分の部屋でプレゼンテーションの練習をすることと、人前で実際にプレゼンすることは、ちがう状況として脳がとらえるからです。

プレッシャーのかかった状態とかからない状態では、色々な違いがありますが、最大の問題は、ふだんの「失敗できる状況」から「失敗できない状況」へと移行しているため、不安が増大し、セルフモニタリングのレベルが不自然なまでに高まってしまうことです。

ゴルファーにパットさせた実験があります。

初心ゴルファーと、熟練ゴルファーをまぜこぜにして、二つのグループに分ける。
一つのグループには、時間をうんとかけさせてパットさせる。
もう一つのグループには、さっさとパットさせる。

結果は?

初心ゴルファーは、時間をかけてパットした方が成績がよかった。
熟練ゴルファーは、さっさとパットした方が成績がよかった。

熟達した技術に対して、余計なセルフモニタリングは逆効果です。というのも熟達した技術というのは小脳など、自意識が直接コントロールしていない脳によって、実行されるものですから、高度で素早い技術を実行しようとする瞬間に、大脳という、有能ですがそれほど俊敏でない脳機能が出しゃばると、本来の技術を発揮できず、失敗するのです。

ほとんどの「プレッシャーに負けた」状況というのは、熟達したゴルファーに時間をかけさせた場合に似ています。余計なセルフモニタリングをあえて加えることで、普段ならば無意識的に処理されている熟達技術の実行に、ブレーキがかかってしまうわけです。

ではどうするべきかというと、プレッシャーのかかる状況では、大脳(自意識)にセルフモニタリングをさせないことです。「自分を見つめない」ということです。

とはいえ、「失敗できない」状況では不安感が増しているため、小脳の「自動運転」を危なっかしいと余計な心配をしています。ですから、大脳はつい「セルフモニタリング」に走りがちです。こうさせないために、大脳にも仕事を与えます。

それが、「一つのことだけを唱えさせる」という昔ながらの方法です。何でもかまわないのですが、できれば有効に作用することの方がよいでしょう。「シンプルにシンプルに」とか、そういったことです。これがうまくいけば、セルフモニタリングによる自己分裂が避けられ、プレッシャーに押しつぶされそうになっても、フリーズしてしまうことは避けられます。

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