ライフハック心理学

心理ハック

011 脳の中の「ロボット」

今回は、私たちの生活を難しくする「ロボット」という人間の「学習機能」について、お話しいたします。

「ロボット」というのは、一種の「記憶装置」です。ほとんどすべての人間が、生まれながらにしてもっているものです。
これを初めて提唱したのは、イギリスのコリン・ウィルソンという作家ですが、いちばんいい例は、自転車の運転でしょうか。人間は、
誰も生まれつき、自転車の運転はできません。でも、練習すれば、ほとんどの人が、自転車に乗れるようになります。これを可能にする「装置」
を、「自転車に乗るためのロボット」とするのです。もちろん私も持ってます。

こう考えていくと、「水泳をするためのロボット」「タッチタイプするためのロボット」「自動車運転のロボット」
「英語を話すロボット」などなど、何体もの「ロボット」を私たちは駆使して、生活していることがわかるでしょう。

ところで、ここまででしたら、じつにすばらしい話なのです。人間は「ロボット」のおかげで、生まれながらにしてはできないことが、
できるようになるのです。なにかのマンガじゃありませんが、「人間は、なんにだってなれる」のです。誰も生まれつき、日本語を操れませんし、
泳ぐこともできませんし、運転だって出来はしません。でもそれらが全部、練習すれば、できるようになる。そもそも人間は、生まれながらには、
歩くことだって、できないのです。

すばらしいことです。でも、私たちをこんなにも有能にしてくれる「ロボット」のせいで、人間は、時に人生が無意味に思えてきて、
「グズ」になったり、もっと重症になると「なにもかもがつまらない」ように思えてしまいます。

というのも、「ロボット」が有能になると、私たちはその行為に、注意を振り向けにくくなるからです。自動車が運転できないときは、
恋人とドライブに行ったり、いずれにせよ運転したくてたまらない。そういうとき、いつか自分が「運転に飽きる」
なんてなかなか想像するのも難しい。けれども、いつしか若葉マークがはずれ、首都高だってすいすい乗りこなせるようになるころには、
もうダメです。運転中、眠ってしまいかねない。「運転する」ということにワクワクできていたなんて、遠い昔のことのようです。

(※逆に、注意が向いてしまうと、欲求をコントロールすることが難しくなることにも、注意しましょう。ダイエットが難しくなるのは、
この注意の仕組みのせいです。チョコレートを「禁止」にすると、チョコレートに注意しなければならなくなるのです。なぜなら、「禁止」
であることを「覚えておく」必要があるからです。欲求とは、欲求に注意して初めて、エネルギーを得るのです。)

以前、
『ドラえもん』のお話をしたのは、このことをまずお伝えしたかったからなのです。私たちは、『ドラえもん』の第20巻を読む前には、
あんなにワクワクしていたとしても、第20巻を読み終えてしまえば、そのワクワクを取り戻すのは難しい。筋を暗記するころには、
もうダメです。運転の「達人」と同じことになる。これには理由があるのです。

じつは、私たちが「現実」とかかわるためには、どうしても「ロボット」が要るのです。『ドラえもん』を読むためには、
「ドラえもんを読むためのロボット」が、必要なのです。誰だってマンガなんか読めるんじゃないか、と思う人は、生まれたての赤ん坊を、
誰も教育しなくても『ドラえもん』が読めるようになるかどうか考えてみましょう。すぐに、そうではないことに気付くはずです。

「運転ロボット」が存在しなければ「車という現実とかかわる」ことができないのは明らかです。
「パソコンを操作するロボット」を持ってないばっかりに、パソコンの前で、途方に暮れている人は、少なくありません。
「パソコンを使うロボット」を自分の中に装備しなければ、「パソコン」という現実と、適切にかかわることはムリなのです。

私たち人間の生活というのは、考えてみると、ものすごい数の「ロボット」群を、使ったり止めたりすることで、成り立っています。
ここで「やる気」がでなくなり、「グズ」になってしまう、最も簡単な理由が見えてきます。「ロボット」は使い込むほど、
レベルアップしていきます。ちょうど、ロールプレイングゲームのキャラクターが、経験値を積んでいくようにです。

ですが、そうするうちに、「現実」に関わるのは「ロボット」になっていき、「ロボット」はあなたが「現実」
に注意を振り向けなくてもいいようにします。最初のうちには、「気を入れて」取り組まないと、すぐに死んでしまう難しいテレビ・ゲームも、
軽くこなせるようになれば、つまらないものになっていきます。この現象が生活の大半を覆うようになったとき、「人生が灰色」
に見えてくるのです。