ライフハック心理学

心理ハック

エイトケン教授の記憶術

iStock_000005540584XSmall.jpg

次のエピソードは、本日発売の『ライフハック心理学』に収録した内容ですが、残念ながら心理学の教科書でも、あまりよく出てはこない話です。

私がこの地味なのエピソードをわざわざご紹介したのは、これを読むまた自分自身当然のように、記憶力を発揮するために、エイトケン教授のアドバイスとは逆のことをやっていたからです。

それは当然で、あらゆる人が私の知る限り、記憶力についてエイトケン教授とは逆のことをアドバイスしています。だから、何か当たり前のように、記憶力を発揮するためには集中力を高める、という発想しか浮かばなくなっていたのです。

エイトケンは、数学者であり、バイオリンを暗譜で演奏し、英文学に堪能で、ラテン語や英詩を暗唱し・・・という人だったそうです。近くにいたら、「勘弁して欲しい」と思いそうな方ですね。その上そういう「学術的な記憶力」だけではなく、「目撃した出来事の詳細を、人名、日時、場所などの属性情報までふくめて正確に再現できたので、委員会が非公式の議事録として彼に相談していたというほど」だったらしく、便利そうな人でもありますが、書いているだけでもいやになってきます。

そのエイトケン教授の「記憶術」とは次のようなことでした。ここからは拙著を引用させていただきます。

そのエイトケン教授が書店へ入って立ち読みした内容を「正確に記憶」できたという話を聞けば、「記憶の秘術」を知りたくなる人は多いだろう。事実彼は、意外な方法論を述べる。エイトケンはこう言う。「専心ではなく、弛緩をますます必要とすることを発見した」と。つまり、ぐっと目をこらし書物に集中するばかりではなく、リラックスをますます必要としているというのである。これは私たちが暗記や勉強をする際に教わってきたこととは、全く異なっている。ほとんど逆である。
 エイトケンもこの点を指摘している。「初めは没頭する必要があるかも知れないが、しかしできるだけ早く弛緩すべきである。それを実行する人は非常に少ない。不幸にして、これは学校では教わらない。」

どうしてこういう方法が、有効なのでしょう? その理由は、少なくとも『観察された記憶』にはしっかり収録されていません。認知心理学の本だというのに。

で、私がとりあえずできる説明はこうです。例のヤーキーズ・ドッドソンの逆U字を使って考えてみます。


IMG_0042.PNG

こういう図です。物事をうまくやるにはちょうどいい緊張感を持つことが大事で、リラックスしすぎていても失敗するが、緊張しすぎても失敗するという。直感的に理解しやすい話だと思います。

しかし、このU字は面白いことに、課題の難易度が上がると、覚醒レベルが低い方がうまくいくようにずれるのです。だから次のようになります。


IMG_0043.PNG

これを見ると、テニスなどで相手が格上だからと言って、むやみに意気込んでもいいことはなにもないようです。ちなみに課題が易しくなると覚醒レベルが高いところにピークが動くわけですから、格下相手に気を抜くのは賢明ではないのです。

さて、一般に「記憶術を活用したい」と思うような場合には、課題は簡単ではないと思われます。楽にこなせるような課題に取り組んでいるときあえていつも以上の「記憶力を発揮したい」などとは思わないでしょうから。

したがって、記憶力を普段以上に発揮したければ、リラックスした方がいい、という結論になるわけです。それにたいていの場合、「記憶しよう!」と人が強く思っていると、緊張感が高くなりがちですから、どちらにしてもリラックスを心がけると、いい結果につながりそうです。

ただし、ピークに持って行くにはコツが必要ですので、そういう練習をいくらか積む必要はあるでしょう。「不幸にしてこれは学校では教わらない」のです。