心理ハック
078 イメージと小脳

サルは、他の個体が棒を使って手の届かないところにあるバナナをゲットするのを「見る」と、自分だけで考えたときの時間より、ずっと早く回答にたどり着くことが出来ます。これを「観察学習」と言います。
この観察学習の応用が、イメージ・トレーニングでしょう。世界のランキング・プレーヤーである、レントン・ヒューイットは、子どもの頃繰り返し、テニスの世界大会を観戦していたそうです。
このエピソードは、まったくありきたりな話に聞こえるかもしれません。しかし、「水泳や運転のような身体で覚える記憶」は、小脳が司る記憶であり、その小脳は、「消去法」で学習することになっています。つまり、身体で覚える技術を習得するには、自分で繰り返し練習するしかなく、「言葉で説明したり、実演して見せても、それでは技術は覚えられない」はずです。
「消去法」とは「長期抑圧」によって達成されます。失敗につながるような運動は記憶しない、という戦略です。つまり、失敗以外の運動だけを、記憶しておくのです。目をつぶった片足立ちの練習は、このことを理解する一番簡単な方法です。苦手な人は、「フラフラ」して失敗するでしょう。その「フラフラ」が失敗へつながる運動なのです。その余計な運動を「抑圧」してしまえば、フラフラしないための運動だけを、優先的に選べるようになります。
つまり、自転車も水泳もピアノも、失敗とは「余計な運動」によるということになります。余計なことをしなければ、うまくいくというわけです。
ただ、そのためにはそもそもの、大枠が必要です。ピアノを弾いて失敗しないためには、まずピアノを弾き始めなければなりません。非常に上手く弾くにはまず、非常に上手く弾こうとしなければ、「失敗」という感覚自体、登場しようもありません。
目をつぶっての片足立ち。それであれば話は簡単です。両足がついたら失敗です。しかし、それが容易に出来るようになったとき、話は少し難しくなります。たとえば、両足がついたら失敗というものの、では「成功」とは?一瞬片足で立てればいいのか、1分か、1時間か。
このようにして私達は、目標を上げれば上げるほど、小脳の「長期抑圧」戦略を「有効活用する」方に、視点を移さなければならなくなります。単なる「学習」と「観察学習」の差は、ここにあります。「観察学習」の成果は、最終的には小脳に蓄えられるでしょうが、そもそも「観察学習」を行う動機は、小脳にはないのです。
「ロボット」にはまず、大筋の目的が必要なわけです。そのためになかなか役に立ちそうなのが、観察学習ということになりそうです。どう見ても観察学習は、「失敗を消去する」のには役に立ちそうもありません。世界のランキング・プレイヤーが失敗したのを見て、それでその「失敗」をつぶしていく、ということは、子どもには無理でしょう。
その逆に、「人間には何が可能なのか?」それを明らかにすることこそ、観察学習の目的です。小脳は、失敗しなかった記憶はなんでも蓄えてしまいます。そうすれば、一定程度の技術は間違いなく習得できます。しかし、それ以上に「ロボット」を向上させるには、その「ロボット」を上手く使えば、何が出来るのかについて、幅広い見通しを持っているほどよいはずです。
自転車に乗るために、転んでは走らせる練習を繰り返せば、たいていできるようになります。しかし、競輪の選手にはなれません。そこで、自転車「ロボット」を華々しく向上させるには、「失敗」の認識を高める必要があります。それには、成功の基準を高めなければなりません。イメージできないような「成功」の、「失敗」はないわけです。(ややこしい言い回しですが)。
失敗とは、試みた結果に現れるかもしれないものです。試みなければ、失敗も出来ません。しかし、出来るかもしれないと思わないことを、試みるということは不可能です。観察学習は、小脳を使うことの可能性を、拡大してくれるわけです。
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