心理ハック
人の歓心を買うだけの目的で仕事を引き受けてはいけない


今週の大きなテーマは「孤独」です。このテーマをひっくり返してみると、「抱え込み型グズ人間」という、先送りの古典的研究書『グズの人にはわけがある』(文春文庫)の1タイプに、見事に当てはまります。
「抱え込み型グズ人間」の特徴は、「ノーと言えない」こと。このことの、極端な性格なのです。なぜ「ノーと言えない」かというと、自覚している部分では「ノーと言うのはわがままだ」と思っているからですが、深く探ってみると、「ノーと言うのが怖い」のです。
この「怖い」をさらに深掘りしてみると、面白い考え方が見えてきます。
「抱え込み型グズ人間」は、人間を独特の価値観で計っており、その基準は「何を達成したか」というものなのです。ただし、そうした自分の価値観について、あまり自覚的ではないため、本当は自分が何を怖がっているか、よく分からないのです。よく分からないまま、たくさんの仕事を抱えて、結果として先送りを繰り返してしまいます。
「成果主義」という価値観
賛否両論はあるものの、会社が「成果主義」を掲げたとしても、そこには理解できる面もあります。しかし、人間関係一般に「成果主義」を求めるというのは、人生を恐ろしく難しいものにするでしょう。ここで言う「成果主義」は、「能力主義」とすら違っています。
「抱え込み型グズ人間」は主に自分を、「成果主義」の価値観に基づき、価値ある人間であろうとします。つまり、次々に大した成果を上げていかなければ、他人に無用の人間と思われてしまう、そのことが怖いのです。
これは一種の能力主義とみなすこともできますが、こうした価値観の相のもとでは、有能か無能かは、成果の質と量にのみ左右されます。無能だと思われることが怖いのですが、そうならないためにも、多大の成果を上げ続けなければならないのです。この考え方こそが、「決してノーとは言えない抱え込み型」を作り出す要因になっています。
有能であっても、必ずしも結果を残せないこともある。一般の能力主義は、こうしたことも認めるでしょう。しかし、抱え込み型の「成果主義」では、そういうことは許されません。結果を出すことは至上命題であり、そうしてこそ、人は自分のことを「認めて」くれるという思い込みがあるのです。
自分に不利な二重基準
そうは言っても、そんな成果主義的な抱え込み型の人とはいえ、親友や恋人を「成果主義」でのみ取捨選択しているわけではないのです。「結果を残せない人は友達じゃない」「結果の残せない人とはつきあえない」。そこまで言い出す人というのは、ごく希で、私は見たことがありません。
抱え込み型グズ人間の「成果主義」は、じつに都合の悪いことに、自分に対してだけ適用されてしまうのです。言い換えると、「成果を出さなければならないのは自分だけ」なのです。この心理にはおそらく、「他人は、必ずしも生産的成果を出さずとも人を惹きつけられる魅力がある」(「あの人は、居るだけで楽しい」など)が、自分はそうではないため、「人の役に立つことを実地に証明し続けなければならない」という思い込みがあるのです。
こうした非対称性についてよく持ち出される説明として、「自分に自信がないから」というものがあげられますが、私としては、逆の見方もできると思っています。つまり、常に成果主義的な発想で生きていて、それを実践しようとすると、自信がなくなっていくと思うのです。
というのも、私たちが他人と一緒に過ごしたり、おしゃべりして楽しむのは、相手が「何かをしてくれるから」ではないため、「何かをしてあげてこそ、人は喜ぶ」という価値観を過度に押し出してくる人と一緒に居ると、何か、居心地が悪くなってしまうのです。
そうした体験を何度も繰り返してしまうと、具体的根拠によって提示できるはずもない「自信」などというものについて、内的な現実感を感じられなくなっていくのも、自然の帰結と言えるでしょう。
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グズの人にはわけがある (文春文庫PLUS) Linda Sapadin 文藝春秋 2002-02 |
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