心理ハック
においの記憶

- 2009年04月15日 (水)
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言葉というものは、私たちの脳の有り様を、かなりよく反映しているようです。
このことは非常に多くの単語において、人間の「視覚優位」を強く現していることからも分かります。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。いわゆる「五感」すべてに刺激を与えてくれるものというのは、探すとなかなか見つかりませんが、たとえば「水」。目に見えるのはもちろん、「水の音」や「水の手触り」、「水のにおい」「水の味」など、一応五感への刺激がそれぞれ意味をなします。ちょっと振り返ると分かるとおり、水は明らかに例外的です。
私たちの情報入力は、あまりにも視覚に頼っているため、基本的に刺激の形容は、「目に見える」ものの名前ばかり利用します。オレンジ色、水色、そらいろ、茶色。「赤」や「青」は全く例外的ですが、これらが結構豊富にあるのも、視覚情報のすごいところ。聴覚情報になると、こういうのはがぜん減ってしまいます。
「音色」という言葉こそありますが、その色の中身は言葉では識別が難しい。「黄色い声」はありますが、「赤い音」とか「青い音」となると、なにやら文学的で意味不明。それでも音は、「ざわざわした音」や「つんざく音」や「悲しい声」など、ものから切り離された形容詞が結構ありますが、これが「におい」となるとますますその数が減ります。
「リンゴのにおい」とか「トイレのにおい」とか「塩素のにおい」などは、ただものの名前を付けただけ。「つんとくるにおい」とか「いいにおい」とか「イヤなにおい」など、いちおうものから切り離された表現はあるものの、これらは刺激の強弱、好悪について評価しているに過ぎません。「イヤなにおいが好きな人もいる」というのは、「赤色が好きな人もいれば、嫌いな人もいる」というのとは、全く違います。
その理由は、嗅覚が基本的に原始的な感覚で、言語野と直接の結びつきがないからです。嗅覚は記憶に深く関わる海馬や、辺縁系など、記憶と感情に関わる脳部位とダイレクトにつながっています。認知を統合するときに、言語記憶や視覚情報と一致させることはできても、(これは子供の頃に遊んだプールのにおいだ)においそのものを抽象化するのは、難しいのです。
しかしだからこそ逆に、においの記憶というものは、あるいはにおいを想像するということは、言葉を介在しない記憶というものを考える上で、有益な情報となるかもしれません。『なぜ年をとると時間が経つのが速くなるのか?』には、この点について読者に注意を促しています。
| なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか 記憶と時間の心理学 | |
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鈴木 晶
講談社 2009-03-26 |









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