心理ハック
110 「ロボット」の成長が止る

すでに古典と言っていい1900年代の、有名な心理実験があります。「ヤーキーズ・ドットソンの法則」と言って、ネズミを使った実験なのですが、簡単に言うと「程よい緊張感で、最高のパフォーマンスが得られる」という法則です。
気が抜けすぎていては何事もまともにやれませんし、緊張しすぎていては、失敗のもとです。これをグラフ化し、覚醒レベルを横軸に、演技のできばえを縦軸にとりますと、覚醒レベルとパフォーマンスの関係は、逆U字の関係になります。
眠りに落ちる直前の状態を、覚醒レベルゼロとします。ここで運転をさせると「居眠り運転」となり、パフォーマンスレベルも最低です。
この反対に、「頭の中が真っ白に」なったような状態を、「過覚醒」と呼びましょう。超・緊張状態です。この状態のパフォーマンスもやはり最低です。
そして最高のパフォーマンスは、その中間のどこかにある、ということになりますから、逆U字の関係というわけです。
これだけならどうということはありません。しかしここから、面白くなっていきます。まず、課題が難しくなると、この逆U字は左側へとシフトします。どういうことかといいますと、課題が難しいほど、リラックスして取り組んだ方が、好結果につながるというわけです。
ということは、課題が易しくなるほど、緊張して取り組んだ方がいいのでしょうか?これもその通りです。逆U字は右へシフトするわけです。頂点は過覚醒に近いところに来ます。U字が歪むわけです。
ここで「ロボット」ですが、「ロボット」が発達すればするほど、課題は易しくなっていきます。すると、覚醒状態は潜在的な最高のレベルに対して、足りなくなっていきます。易しい課題では、覚醒レベルが高いほど、高度なパフォーマンスが得られるのですから、発達した「ロボット」を持っているのであれば、強烈な集中力を持って取り組むべきなのです。
が、「ロボット」が発達すればするほど、ほとんどの人はリラックスして取り組み出します。初心ドライバーと、ベテラン・ドライバーのことを考えてみれば、これは一目瞭然でしょう。人にもよりますが、がちがちになってハンドルの10時と2時を握りしめているのは、初心ドライバーです。ベテラン・ドライバーは背もたれに深く腰掛けて、片手で運転しながら、今にも眠りそうです。
覚醒レベルの理想からいうと、両者は反対です。初心ドライバーにとっては、「ロボット」が未発達ですから、リラックスしてドライブするほどいいのですが、実際には過覚醒で、自縄自縛気味です。一方、ベテラン・ドライバーに向かって、運転するたびに「最高の」パフォーマンスを求めるのは、ばかげているかもしれませんが、覚醒水準が低いままに「易しい」課題に取り組むと、ミスが多くなりがちなのです。
テニスの上手い人が、格下の相手に気の抜いたプレイで遊んでいると、ミスが増えがちなのはこのせいですが、人間社会はここが難しいところで、格下相手に「過覚醒」レベルでビシビシ圧倒すれば、「大人げないね」と皮肉られそうです。
ここでオリンピックの演技を考えてみましょう。理想を言えば、オリンピック選手は、一般的にはもちろんのこと、達人である本人たちにも「難しい」課題に挑戦するのですから、リラックスして取り組まないと、なかなか最高のパフォーマンスが発揮できません。「トンだ人」が時に金メダルを取ったりする理由は、こんなところにあるのでしょう。
あるいは、どっちみち「頭が真っ白に」なるほど緊張するのだったら、過覚醒レベルになってもかまわないように、「易しい」課題を選ぶことです。それには、演技に対する「ロボット」をどこまでも成長させておいて、課題を自分にとって「易しく」してしまうことでしょう。
これは文字通り、「言うは易し」なのですが、それでもどんな人にとっても、ポイントは、「ロボット」に求めるパフォーマンスにあります。先週述べましたとおり、私達は一日の大半を「ロボット」として生きていますから、どうしても「ロボット」を一定の成長でとどめがちです。過覚醒から逃れたいがためです。だからこそ、「馴染み深くて珍しいもの」ばかりを追い求めてしまうわけです。
あくまでも1つの考え方として、どこまでも覚醒レベルを上げていくと、「ロボット」はいくらでも成長させられる、とは言えるでしょう。しかしそれは現実的ではありません。それは、いつまでも大いにワクワクして、ドラえもんの第1巻を何百回も読もう、というようなものです。
そこで私達は、「徐々に課題を難しくする」というやり方で、「ロボット」の成長を促すわけです。易しい課題ほど覚醒レベルを上げる必要があるのですから、課題を難しくすれば、覚醒レベルは中くらいで良いことになります。野球なら野球、英語なら英語で、課題を難しくすることは、ほぼ無限に可能です。
こうなると、後は「徐々に難しい」課題に取り組み続けるという、モチベーションの維持ですが、これは難しい。子どもを見てもわかります。あんなに大好きなテレビゲームでも、当然クリアできる簡単な「1面」に「逃避」しがちなのは、覚醒レベルを下げても自尊心が満足されるようにするからです。これはまったく「ロボット」の自尊心です。
そこで、どうしても難しい課題に取り組むのであれば、少しは本人の苦痛を軽減できるちょっとしたコツが必要だと思うのですが、次週には、そのお話をいたしましょう。
-
http://www.month-psy.com/blog/2006/08/2.0060731200608e+15.html ??????????????????????????????








Twitter