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055 危険を知らせるユーモア Clip to Evernote

『暴力から逃れるための15章』7 

今日は、「人工衛星」の1つである、「危険を知らせるユーモア」についてのお話です。

皆さんは、「左脳と右脳」に大脳が分れている、という話を、少なくともどこかで耳にしたことがあると思います。大脳生理学でも、興味深い研究テーマながら、あまり深入りすると「二分脳マニア」などと陰口をたたかれる恐れもある、面白い分野です。

たしかに、

「左脳は理論的、右脳は感情的だから、左脳は男性的で、右脳は女性的な脳」

とか

「左脳は言語・数学を得意とし、右脳はビジュアル・空間を得意とするから、芸術家は右脳の方が発達している」

といった、ものすごく単純な「二分」は、問題があります。左脳が言語を支配するとはいえ、右脳に言語を扱う能力がないわけでは、ありません。

と、疑問を投げかけることは容易ですが、実際に大脳が「二分」されているのもまた、事実です。つながってはいますが、その連結部を分離してしまっても、すぐにそれと分かる「障害」は、発生しません。長期的には、深刻な問題をもたらすのですが。

その深刻な問題、というかそれほど深刻でもない問題の1つが、「ジョークが分からなくなること」です。

ジョークというのは、難しいものです。ことに、ブラック・ジョークのようなものとなると、難しい。ジョークに関して、「完璧な」心理学的理論は、今のところ出ていません。出ているなら、「ジョーク製造ソフト」をパソコンで作り出せそうなものです。ちょっと考えればすぐに分かるとおり、パソコンソフトが生成するジョークって、すごくつまらなさそうではないですか?

ところが、そんな「つまらないジョーク」でも、大いに受けることの出来る人々がいます。右脳に損傷の受けた患者さんです。

意外に思われるかもしれませんし、そして厳密な理由は明らかではないのですが、どうも左脳優位の人というのは、妙に「楽観的」であるようです。(右脳優位はその反対で、悲観的と言われています)。いずれにせよ、右脳損傷を持った患者さんは、面白くも何ともないことで、けたたましく笑う、という報告があります。

「隣の囲いに塀が出来たよ」
「へー」

はっきり言って私はこれを、書くのもいやなのですが、アメリカ人には大いに受けます。アメリカ人はみんな、右脳を使わずに生きてるんじゃないかと、思いたくなるほど、受けます。そういえば、みんな、やけに理屈が好きですしね。

と、これは脱線ですが、要するに左脳だけでは、なかなかジョークは成立しないわけです。何でもかんでもけたたましく笑うのでは、ジョークは不要です。

一方で、何でもかんでも深刻そうな顔をしている、いわゆる「ジョークの分からない人」もいるわけで、右脳だけでもジョークは成り立ちません。ジョークは、特にブラック・ユーモアは、「真に受けて」はダメで、楽観的に笑い飛ばす精神が必要です。それはおおむね、左脳の領分なのです。

このように、ジョークを理解するには、右脳的に「真に受ける」必要がまずあります。
「おかしい!それは変だ!そんなんじゃ、いけない!」
「なぜ?」
「それは・・・」

右脳は、言語が扱えますが、言葉で説明するのがあまり得意ではありません。なんとなく直感的に、「おかしい!それはおかしい!」と思うわけです。専門的に言えば、「理論の転移」に気がつくわけです。

しかし、こんなふうに、「最近の世の中はおかしい!」といちいち真顔で文句ばかり付けていたら、うっとうしくてしようがない。そこで、楽観的で言葉巧みな左脳が、それをユーモラスに解釈して、発語するわけです。こうしてジョークは成立します。

そこでですが、ここで何らかの「危険信号」を右脳が受け取ったら?
右脳は、全体把握して、直感的に「断絶」を見抜きます。左脳は楽観的に見落としてしまうかもしれないことでも、右脳は「無意識に直感して」います。

たとえば、会社で郵便物の仕分けをしていたところ、もうとっくに退社した人宛の小包を見つけたとします。かまわないから開けてみよう、と誰かが言ったところで、

「おかしい・・・それは変だよ・・・」

と警鐘を鳴らします。ただそれは一瞬のことで、しかもここが大切なところですが、人は、むやみやたらに警戒心を起こすことを、滑稽で恥ずかしいと思わねばならない、社会生活の中で生きています。しかも右脳の判断は一瞬で、全体的であるために、「なぜ、どのようにおかしいのか」を筋道立てて説明できません。そこで、この手の警鐘は、抑制されてしまうことが多いのです。

しかし、この「内心の警鐘」をわずかにせよ真に受けた、ある局員が笑いながら次のように言ったとします。

「悪いけど、俺は外に避難しているよ。そいつが爆発するといけないからね」

これが、「ジョーク」です。内心の「おかしい」という直感を、かすかにでも受け止めた結果、左脳が楽観的・言語的に再解釈してみせたわけです。もちろん同僚は、みんな大笑いしました。そして次の瞬間には、みんな爆発で吹き飛ばされてしまいました。これは実話です。

もちろん、この避難した人だけは無事でしたが、彼はその時、「なぜあんなことを言ったのか、分からなかった、ただなんとなく・・・」喋ったのです。後からなら、左脳の言語解釈能力によって、何とでも説明可能ですが、問題は爆発する前です。その時には、右脳と左脳に限らず、人間の無意識はあまりに高速に運動するために、自分が何に気がついたかにすら、気がつかないのです。

みなさんも、自分が「思わず」ジョークを口にしたら、ちょっと立ち止まって考えてみると、いいかもしれません。