ライフハック心理学

心理ハック

001 競馬管理 vs. 顧客管理

私が会社勤めをしていた時期、同僚に大の競馬好きがいました。それはもう大変なもので、ほぼ毎日、競馬新聞を手に持って、赤ペンでチェックを入れたり、ケータイで馬券を購入していました。そんな人はざらにいるかもしれませんが、私の周りではその人一人きりだったので、大変興味を覚えました。

その人とは、たまたま席が隣だったので、私は彼に、エクセルの使い方を教える、という役割を振り当てられました。エクセルの使い方といっても、もっぱら住所録のデータ入力と、たまに関連する顧客番号検索、電話番号などの単純な並べ替え操作、といった程度でしたから、まだ若かった彼は、苦もなく覚えてくれました。

すると、彼は競馬マニアの本領を発揮して、覚えたてのエクセルを使って、競馬データの整理にのり出しました。それからが、私にとっては大変で、彼は競馬に関する「ありとあらゆること」を、エクセルで管理しようとするのです。業務の顧客データに関しては、私にほとんど何一つ質問しなかったくせに、ことが競馬のデータとなると、仕事から帰って、家でくつろいでいる時間にまで、携帯が鳴る始末でした。

私はこの出来事に際して、なんだか興奮してきました。彼はいったい、どうして競馬となると、これほどまでに熱を上げることが、できるのか。エクセルでデータ管理するということで言えば、顧客管理も競馬管理も、ほとんど同じです。と言うより、競馬データの完璧管理の方が、はるかに面倒です。だからこそ、業務に関しては質問が出ないのに、競馬データ管理では、私に山のように質問を浴びせてきたのです。

それは競馬の方が、データ管理のしがいがあるからさ、ということになるのでしょうか。しかしその「やりがい」とは、いったいなんでしょう。当時私の勤めていた会社の給料は、不景気な時代にしてはそれなりによくて、一件あたりの実入りを比較するなら、競馬よりもはるかによかったはずです。

業務と同じようなことを、比較して「実入り」が少ないのに、何倍も熱中してやることができる。それは「競馬」は遊びで、「顧客管理」は仕事だからでしょうか?おそらくそのとおりなのでしょう。しかしそれは、じつに認知的な発想です。つまり、やることが似たり寄ったりでも、競馬なら熱中できるのに、仕事だと熱中できない。儲かるから熱中できるのではなく、仕事ではないから熱中できる。

が、私は最近になって、むしろこの「熱中度」を左右しているのは、仕事か遊びかということもさることながら、不確実性という要素なのだと、思い始めました。人間は、安定確実な結果には、気が向かないのではないか。不安定で、リスキーなことの方が、それがなんであってもやりがいを感じるのではないか。もっと言うなら、ワクワクするには、不安が必要なのではないか。

と思うと、文明生活圏での自殺率・うつ病発生率の高さが、なんとなく分かるような気がするのです。私たちは「甘やかされている」のではなく、生活にギャンブル性が少ないから、無気力に陥りがちなのではないでしょうか。文明は、生活の不確実性を、できるだけ少なくするように、力を注ぎます。しかし、もし人間が、生来その不確実性を求めているとしたら、いったいどういうことになるのでしょう。

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